新規開業に向けての心構え #簡単に開業できない時代にどういう準備が必要か
今回は新規開業について書いていきたいと思います。
2021.12月と2022.1月に“開業までの道”としてコラムを書きましたが、この2年半で時代は更に大きく変わってきているのが現状です。これから開業を検討していく上で知っておいて頂きたく、今回このお題とさせていただきました。
過去コラム
2021.12月 開業までの道 #融資交渉にむけて(1)
2022.1月 開業までの道 #融資交渉に向けて(2)
ご参考までにご一読いただいた後に、今回のコラムを読み進めて頂ければ幸いです。
まず一番最初にお伝えします。
「これからの歯科開業は非常に厳しい」
いきなりマイナスな事をお伝えするのは心苦しいのですが、これが現実です。
この、“非常に厳しい”というのは、事業として成り立つのが厳しいということではなく、創業資金の融資交渉が厳しいということです。(そういう意味では安心して頂ければと思います。)
まず開業のスタイルをおさらいしたいと思います。
歯科医院を開業するとした時に、どういったパターンがあるのか?
1、土地購入・建物建築パターン
2、土地貸借・建物建築パターン
3、テナント開業パターン
4、居抜き物件パターン
大きく分けると、上記の4つのいずれかになります。
では、この中で一番厳しいのはどれか?
ご自身が開業を考える中で1〜4に当てはめてみてから考えてみてください。
A、1の土地購入・建物建築パターンです。
理由については言うまでもありませんが、創業にかかる費用が大きい!
これに尽きます。
*融資交渉をする相手はどこか?
A,基本的には各地域の地銀様となります。
基本的には、2行か3行に事業計画を提出・面談をし、それぞれの銀行様からジャッジを頂くという形が一般的になります。何か強い繋がりがあって、明らかに1行で良い条件を引き出せるということもありますが、それはかなり稀なケースとなります。
*銀行融資のスタイルは?
では銀行様から融資を受けるとした場合、どういったパターンがあるのか、おさらいしましょう。
1、プロパー融資
2、信用保証協会付き融資
3、日本政策金融公庫との協調融資
4、他行との協調融資
大きく分けると、上記の4つとなります。
一番目指したいのは、1、のプロパー融資となります。プロパー融資とは、銀行1行で融資リスクを負い、融資を実行してくれるものを言います。※歯科医院の開業はイニシャルの費用がかかるため、プロパー融資のみでの貸付はほぼありません。
では、現実的なのはどれか?
A,信用保証協会付融資 となります。
これは、同じ金融機関からの融資の中で、プロパー分と保証協会分と分かれて貸付してくれるパターンです。銀行側の回収リスク回避となるため、この形が多く取られます。
3、4については、地域による部分があると思いますが、東北地方ではあまり一般的ではありません。
※弊社の開業支援実績が東北地方に多いため、他地域の情報は定かではありませんので、ご了承ください。
*金利や返済期間・評価の変化
2.3年前とこの半年とでどれだけの違いがあるのか?
例を出してみたいと思います。
金利 1%前後 → 1.5~2.0%
返済期間 20年 → 17年~18年
評価 銀行により評価差異がかなり有り
あくまで例として見ていただきたいのですが、実際に弊社の支援例となります。
※親御さんの太さや、資産の有無、担保価値等でも融資条件は大きく変わりますので、ご了承ください。
○金利は、明らかに上昇
○返済期間は短縮傾向にあり
この2点は、開業後の医院経営の観点では大きなデメリットとなります。
理由としてはお話するまでもありませんが、金利は低い方が返済の面で良いですし、期間は長い方が毎月の返済金額を抑えられるというメリットがあります。借入額が大きくなっている中で、条件が悪くなってきているのが問題点であり、開業前に意識しておく必要があるということになります。
返済金額のイメージを見てみましょう。
必要費用(例)
1、土地 30,000,000円
2、建物 110,000,000円
3、器材 50,000,000円
4、運転資金 20,000,000円
5、つなぎ利息・税金等 5,000,000円
6、開業準備費用 5,000,000円
7、自己資金 10,000,000円有り
上記1〜6計 220,000,000円
自己資金を差し引くと、210,000,000円が融資希望額となります。
比較するために、保証協会付融資等は除外して考えます。
パターン1(2年前)
金利1.2% 据置12回 返済年数20年 ※わかりやすくするために元利均等記載
月返済額 1,030,497円(元金+利息)
パターン2(現在)
金利1.8% 据置12回 返済年数17年 ※わかりやすくするために元利均等記載
月返済額 1,259,614円(元金+利息)
月の返済額は、約230,000円/月 変わってくることになります。
保険点数で換算すると、23,000点の違いですね。
来院数で換算すると、27人/月の違いとなります。 (23,000÷850点=27.05人)
月20日稼働とすると、1.35人/日 多く見る必要があるということになります。
例として1つ出しましたが、借入の厳しさ+返済金額の差異もお解り頂けたかと思います。
では、どういう準備をすればいいのか?
1、自己資金の拡充
2、欲しい器材と必要な器材の棲み分け
3、開業パターンの熟考
借入と返済を軸のテーマとして考えると、上記3点になります。
まず第一に重要なのは、1の自己資金の拡充となります。
数年前までは自己資金が数百万でも融資交渉はそれほど難しくない部分がありましたが、今後はここの部分を大きく持っておく必要があります。全体の費用ボリュームが増している中なので、自己資金で求められる額も上昇してくるのは必然です。
研修医を終えてから開業するまで、仮に8年間勤務するとしましょう。
土地開業の場合、200,000,000円として見て、その1割を自己資金として貯める場合
20,000,000÷96ヶ月=208,333円/月
30歳前半の段階で、約2,000万を貯めるとするとこういう計算になります。
これから開業を考えていかれる先生は、ここを最低限の目安として頂ければと思います。
2、の器材については、必ず必要か、出来れば欲しいかにより、検討が必要です。
急を要しない器材については、軌道に乗ってから購入する方法もありですので、スタート時に必ず必要な器材は何なのかを意識して、器材選定して欲しいと思います。
3、の開業パターンについても頭を悩ませる部分になっていきそうです。
土地からの開業では、建築費が圧迫して費用を下げるのは非常に難儀するところとなります。
ただ、開業時の融資額を下げるためだけに、器材を必要以上にリースに回すことや、土地を賃借にするなどは、綿密な計算が必要となります。融資額が50,000,000円下がっても、土地の賃借料が月300,000円、器材のリース料が月250,000円となってくると、月々の返済を逆に圧迫していまうことになりかねませんので。
置かれている状況、得意とする治療、将来のビジョンや理念。
先生一人ひとり違いますし、求める開業スタイルもイメージとしてもってらっしゃると思います。
思った通りに進んで欲しいと思う中で、今から考えておかなければならないことは山ほどあります。
簡単に開業できる時代は終わりました。
ご自身の城を持ち、ご自身の提供したい治療をチームとして提供するためには、今が大事です。テクニカルの研鑽が一番重要ですが、同時に開業を意識し始めたら、お金を貯めることを第一に実践して欲しいと思います。
次回はまたちょっと違った観点から、歯科医院の開業について書いてみたいと思います。
「たかが数値。されど数値。」
医院の今から未来をつくる。
歯科医院発展応援団 吉澤 貢