歯科の粗利はほぼ一緒 #経営が苦しい原因は何?
今回は、ちょっと厳しい目線のコラムになります。
歯科医院を経営していると、どこかのタイミングで悩みや困難にぶつかることがあるかと思います。その時に、その困難の原因は何なのか?冷静に見定める力を持ってますでしょうか?
経営が苦しいのは何故?
スタッフに払う給与が足りない...
昨今の賃金上昇、物価上昇により経営が圧迫されている...
賞与を出してあげたいけど、キャッシュがない...
頑張っても頑張ってもお金が残らない...
求人を出しても一向に応募がない...
目標とする売上に到達するイメージが湧かない...
スタッフが思うように働いてくれない...
ざっと考えても、挙げれば上記のような内容が出てきます。この中に1つでも該当する項目がある先生は、医院経営に少なからず悩みを抱えていらっしゃるのではないでしょうか?
ちょっと、歯科業態について整理してみましょう。
歯科医院の収益構造は、患者数×単価となります。 基本的には国民皆保険の中で事業を継続し、7割を国が、3割を患者さんが支払う流れとなります。※7割の取りっぱぐれがない段階で、非常に安定した業態であると言えます。(回収不能が劇的に少ない業態と言えます)
今回のタイトルにある“粗利”
歯科業態の粗利は、平均すると約21.5%前後になるかと思います。(弊社お客様の昨年実数値より)計算式は、売上高-変動費です。※保険と自費のバランスにより上下しますが、一般的な歯科医院は上記の%前後で考えて頂ければ良いです。
粗利とは、売上総利益と言われるものです。
これは業種により大きく変わるもので、例えば卸売業であれば15%,小売業であれば30%、情報通信業であれば45%,喫茶店であれば50%...が平均となります。歯科の場合は、ざっくり80%ですので、粗利率は他業種と比較して劇的に高い業態であることがわかります。
これはどういうことかというと、一言で表すならば“サービス自体の価値”となります。例えば上記の卸売業はメーカーから問屋、問屋から自社と商品を仕入れて顧客に販売をします。商品を販売する段階で費用はかかっていて、それを何個かのフィルターを通して自社で仕入れ販売するわけです。そうなると、勿論得られる利益は少なくなるのは言うまでもありません。
お客様に合った商品を提供すると言う意味では、卸売業の仕事は楽ではないと思います。ですが、基本的に商品の魅力があった上で商売が成り立ち、それを顧客にお届けするという意味で、付加価値は高いものでがありません。語弊があるかもしれませんが、ある意味“人”ではなく“商品”があってのビジネスであると言えます。
歯科医院は、粗利を80%持っています。尚且つ、国が売上回収の70%を確約してくれています。提供する付加価値は主に技術となります。(技術は一般の方には見えづらいので、医院全体の活気や雰囲気、接遇、応対力も重要な要素となります。)
ここまでで、歯科業態は付加価値が高く、事業として非常に恵まれているものとご理解頂けるかと思います。
売上を上げるためには基本的に2つの考え方があります。
1、保険診療を軸:総来院数と1回あたり点数が肝となります。
2、自費診療を軸:コンテンツと単価が肝となります。
※これらを適正なバランスでMIXするスタイルも勿論多くありますが、基本的な考え方は上の2つとなります。
経営が苦しい...
これ実は、どこの段階で苦しいかにより解決策は大きく変わってきます。
例を挙げてみたいと思います。
【モデル医院1】
1日来院数 50人 / 1回あたり点数 800点 / 月診療日数 20日 / 自費はほぼなし
ユニット台数 5台 / スタッフ数 6人 正社員(DH-4 DA兼受付-2)
この条件を見ただけで、苦しいか否か分かれば、この先を読む必要はありません。
上の条件を見ても意味がわからない、または自院の数値を同じように並べてみてもさっぱりわからないという先生は読み進めて欲しいと思います。
では、上記のモデル医院を分析します。
50人×800点×20日=800,000点
800,000点×12か月=9,600,000点
雑収入等も加味すると年商1億の医院さんであることがわかります。
ユニットが5台で1日50人ですので、ユニット回転は10回転となります。
かなり回せている医院であることがわかります。(回せていることの良し悪しは考えないこととします)
スタッフが6名在籍で月の売上が8,000,000円
1人当たり売上は、1,333,333円
どうでしょうか?
これは生産性の観点からいうとどんな医院でしょうか?
A,少ない人数でかなり効率よく稼げていると言えます。
このモデル医院のケースで経営が苦しい場合、完全に院長に原因があると言えます。
理由としては、スタッフ1人あたりの生産性がかなり高いというところにあります。
1人あたり1,200,000円以上の生産性があるのであれば、本来経営が苦しいということはあり得ません。
変動費を20%とすると、1人あたりの粗利益(売上総利益)は、約106万となります。
給与を30万とすると、3.5倍の利益を生み出しているということになります。
この付加価値をもって経営が苦しいということは、経費の使い方や投資など、営業利益までのどこかの経費、過大な元金返済額がその要因かもしれません。
スタッフが関われるのは、粗利(売上総利益)を出すところまでです。
損益計算書でいうと、その下の営業利益・経常利益・税引前利益・当期純利益は経営者側の責任部分となります。
よって、このモデルケースでは苦しい場合は、経営者として失格であり、スタッフに経営が苦しいからと言って、更になる利益の上積みを強いるのはナンセンスとなります。そもそも、この状態で更なる上積みをするには、回転数を11回転、12回転と上げていかなければなりません。それは現実的に難しいことです。
では、以下のモデルケースはどうでしょうか?
【モデル医院2】
1日来院数 30人 / 1回あたり点数 800点 / 月診療日数 20日 / 自費はほぼなし
ユニット台数 5台 / スタッフ数 6人 正社員(DH-4 DA兼受付-2)
モデル1との違いは、1日来院数だけです。
では、上記のモデル医院を分析します。
30人×800点×20日=480,000点
480,000点×12か月=5,760,000点
雑収入等も加味すると年商6千万の医院さんであることがわかります。
ユニットが5台で1日30人ですので、ユニット回転は6回転となります。
スタッフが6名在籍で月の売上が4,800,000円
1人当たり売上は、800,000円
どうでしょうか?
これは生産性の観点からいうとどんな医院でしょうか?
A,人員と売り上げのバランスが乖離していると言えます。
先ほど、スタッフ1人当たり1,200,000というお話をしましたが、このモデル2では800,000円となっており、モデル1の2/3の生産性しかありませんこれでは医院に残るお金はなく、スタッフには賞与を払えず、院長の取り分も少なく、内部留保もできない状態であることは容易に想像がつきます。
これは、スタッフだけの問題ではなく、院長のスキル(技術・指示出し・信頼関係等)資質によるところもあります。このケースの場合は、どうやれば売上を上げることが出来るかスタッフさんとじっくり話し合い改善していくことが必須事項となりますし、スタッフさんにも説明がつくわけです。
結論です。
スタッフ生産性が1,200,000を超えていれば、スタッフには何も言えません。
スタッフ生産性が1,200,000を下回っていれば、改善策を打ち出して経営改善する必要があります。
1,200,000を超えているのに苦しい場合、院長の経営者としての資質に問題があるケースが多いので、財務諸表をチェックして問題点はどこにあるのか精査する必要があります。
精一杯頑張って、付加価値に貢献している中で、それでももっともっとと求めるのは辞めましょう。それではチームとして成り立たなくなり、空中分解していくのが目に見えています。現在の経営状態を見て、これがスタッフも巻き込んで改善すべきことなのか、院長ご自身の問題なのか、見極めることを肝に銘じて日々の診療に取り組んで頂ければと思います。
「たかが数値。されど数値。」
医院の今から未来をつくる。
歯科医院発展応援団 吉澤 貢